妊娠中の歯のトラブルは、珍しいことではありません。今まで違和感がなかったところでも、体の変化やホルモンバランスの変化によって、痛みや腫れが出やすくなるものです。親知らずは、生えている場所や生えてくる時期の関係で、歯磨きが行き届かなかったり、無理やり生えてきたりと通常でも問題の多い歯とされています。特に体の状態が不安定な妊婦さんにとって、しっかりと口腔ケアを行き届かせるのはとても大変なことです。
今日は、妊娠中に関する親知らずやお口の中の疑問などを一緒に考えたいと思います。
1.妊娠中の歯科治療時期は?
ママにとっても赤ちゃんにとっても身体が大きな変化をしている妊娠中に風邪を引いたり、怪我をするのは、負担が大きいものです。歯のトラブルも同じです。妊娠中のお母さんはおなかの子どもを養うために、疲れやすくなります。また、ひどいつわりにより、歯を磨くことすらできなくなってしまうお母さん方もいるのです。さらに他のトラブルと妊娠時期が重なってしまうと、命の誕生を喜ぶのもつかの間、何をする気力も体力もなくなってしまうほどに疲弊してしまう方もいます。
妊娠中に合わせて、計画的に親知らずを抜こうと考える方はいないと思います。しかし、痛みや不調との出会いはいつも突然やってきます。
特に、妊娠中はホルモンバランスの影響により、お口の中の唾液が酸性へと傾き、粘性も高くなります。唾液による自浄作用の効果が低くなることに加え、食べる量も必然的に増えることから、虫歯や歯周病にかかるリスクが高くなるのです。体が疲れている状態や、弱っている時と同じように、細菌や炎症などに抵抗する力が弱くなってしまうため、歯茎も腫れやすくなっています。妊娠前には問題がなかった親知らずが、妊娠が分かってから急に腫れ始めるということも、珍しくないのです。
妊娠中は、歯の治療は避けた方がベターですが、安定期(16~27週)であれば簡単な手術や処置は可能です。しかし、緊急の処置が必要ではない場合は、体に与える負担を考慮して、消毒や洗浄のみを行い、負担が大きい治療や抜歯は時期を延ばすことが多いです。
ちなみに年齢別の抜歯リスクについてはこちらの記事をご参照ください
2.親知らずの検査-レントゲンは大丈夫?
妊娠中は、レントゲン・薬の投与などをできるだけ避けたほうがよいと聞きます。歯科診療についてはどうなのでしょうか。まず、抜歯をする前の親知らずの状態の検査にはどんなものがあるか、妊婦さんが避けた方がよいものがあるのかをご説明いたします。
- 痛みや感覚→問診で確認
- 歯の状態→目視や触診で確認
- 骨・歯茎の状態→レントゲンで確認
歯医者さんに行くと、気になるところや痛みのあるところについて伝えます。ズキズキするのか、ジンジンするのかなどの痛みの種類や違和感、それらを感じ始めた時期を具体的にお話しください。その後、歯科医や歯科衛生士が歯や歯茎の状態を観察します。その後、歯のレントゲン写真は、歯や骨の状態を確認するために、外すことのできない検査です。
歯の根っこのトラブルや、歯ぐきの中にある親知らずが向いている方向など、歯やお口の状態の半分はレントゲンを撮らないと正しく判断できないもの多いからです。妊娠中のレントゲンは心配かとおもいますが、歯科用レントゲンがおなかの赤ちゃんに与える悪い影響はほとんどありません。歯科用レントゲンの対象は、頭部のみを対象としています。ほぼ影響はないのですが、心配な方は放射線のプロテクターを着用して、撮影をしてもらってください。
レントゲンを心配して、治療を先延ばしにするより、歯の痛みに苦しむお母さんの方が心配なのでぜひ早めに受診をして下さい。なお、当院のレントゲンは通常のレントゲンと比べて被ばく量が1/10となるデジタルレントゲンを採用しています。心配な方は、デジタルレントゲンのある歯医者さんに相談してもよいかもしれません。
3.抜歯時の麻酔!?
歯医者さんでは抜歯時だけではなく、歯の治療時にも局所麻酔を用います。治療に使う麻酔は、ごく少量であり、注射したその範囲のみの効果に限るもので、全身にその影響が及ぶことはありません。歯科診療時の麻酔は赤ちゃんにとって、ほぼ影響はないといえます。
4.親知らずの抜歯後の薬
親知らずに限定したお薬というのは、ほぼありません。親知らずの抜歯を行った場合も、他の歯の抜歯後に処方される薬と同じです。それは、主に化膿止めと痛み止めです。妊娠中に注意したいのは、歯科治療時の麻酔よりも、服用薬の方です。妊娠中の薬は、飲まないに越したことはありませんが、必要に応じて医師の判断を仰ぐようにしてください。歯科治療をする際に、妊娠中であることを伝えてはいるかと思いますが、処方されるときも再度、妊婦が飲んで大丈夫な薬かどうか確認しましょう。歯科で処方される薬の種類は大きく分けて以下の3種類です。
- 痛み止め
- 化膿止め
- うがい薬
痛み止め
一般的に痛み止めとして使用されるボルタレン、ロキソニンは妊娠中は避けてください。妊娠中のお薬としては、カロナールが良いとされています。お薬なので、100%問題ないというわけではありませんが、他の痛み止めと比較しても安全性が高いものとして知られ、妊婦さんに処方されています。一般的に妊婦さんや妊娠の可能性がある方の、痛み止めとして処方されます。
化膿止め
いわゆる抗生物質で、菌やウイルスに対して、抵抗し悪い働きを抑制させる効果があります。親知らずが腫れたり、歯茎が腫れたりするときに、飲む化膿止めは、抗菌薬と呼ばれるもので、炎症の原因となる菌の動きを落ち着かせるものです。妊娠中・授乳中の方にとっては、ペニシリン系のお薬が安全性が高いものとなります。
また、抗生物質は、定められた容量をきちっと服用しないと、菌に対して耐性ができる可能性があるので、最後まで飲み切るように注意しましょう。
うがい薬
歯医者さんで処方されるうがい薬は、お口の中やのどを消毒するものです。うがいをすることで、お口の中や舌の菌をきれいにする働きがあります。
しかし、うがい薬の中にヨウ素という成分が入っている場合は、注意が必要です。海藻類などに含まれる栄養素の一つですが、うがい薬によりヨウ素を大量に摂取すると、赤ちゃんの甲状腺機能の低下につながることもあるそうです。うがい薬を薄めて使用する場合は、用法・容量を守ってお使いください。
抜歯後のお食事につきましては以下の記事を参考にしてください。
5.妊娠中のお口のケア
妊娠中は、ホルモンバランスが不安定になります。つわりで歯磨きが苦痛になることもあるでしょう。歯磨きの回数や時間帯などは気にせずに、あきらめずにできる範囲でお口のケアをしていただきたいと思います。おすすめのお口のケアをご紹介します。
- 下を向きながら歯を磨く(気持ち悪くなりにくい)
- 匂いが気になるなら、歯磨き粉をつけない
- イソジンや重層水(食用)でお口の中を殺菌うがいする
繰り返しとなりますが、体調の変化と口腔ケアの難しさから、妊娠中の親知らずのトラブルは少なくありません。普段から、かかりつけの歯医者さんに相談し、定期的な検診やクリーニングをすることで、急なトラブルを予防することができます。
何よりも、生まれてくるお子さんのために、悪影響を及ぼす治療や薬はなるべく避けたいと思うことが、お子さんへの愛情の現れです。新しい命を穏やかな気持ちで迎えることができるように、ぜひ日ごろから歯を大切にしてください。
プラザ若葉歯科では、妊産婦さんの歯科診療も積極的に行っています。つわりで苦しい時期を乗り越えた後、おなかが大きくなる前までの間に、一度歯科検診を受けると、お母さんの心の準備ができ安心して赤ちゃんを迎えることができるのではないでしょうか。
お口に関する悩み・不安、お子さんの歯のトラブルなどいつでもご相談くださいね。
プラザ若葉歯科は、いつも笑顔でいたいと願うお母さん方の味方です!!